雀 - 西野績葉
古語調:

日の出たるときしばしすぎて、
東の京といふ都へ、雀の稚児一羽降立ちぬ
雀、灰いろの硬き地に降立ち、辺りみゆる
稚児のいろ、ところどころまだら
しばしあたり見たるのち、黒猫をみいでつ
雀ひとつ鳴きてひとかどへ移りぬ
その素早き事、目に追うに難し
またあるところに績葉(せきよふ)といふ青年あり
青年、荷を持ちつそれを見ゆる
かの雀見つめることしばし時あり
うとうつくしきこと、こころおもふ
かの青年、つひとておもい手を伸ばさるも、
雀、青空へ飛び立ちぬ
青年、悲しきことしばし。
彼、何事か思ひたちて、何事もなし、歩きゆきぬ

現代調:

ある朝、東京のアスファルトに雀の子供が一羽降立った。
雀の体は、所々斑模様だった。
雀はしばらく辺りを見回して、猫を見つけた。
その雀は「チュ」と鳴いて、近くに飛びうつった。
そのすばやさは目に追うには早すぎる。
ところで、績葉と言う青年がそれを見ていた。
彼は買い物帰りで、荷物をもち、その雀を見つめていた。
かわいいな、と思いながら。
そして青年はつい、その雀に手を伸ばしてしまった。
雀は何も言わずに空へ飛び立った。
青年は少しの間、それが悲しいと思った。
彼は少しの間何かを考えて、そして何事もなかったかのように、歩き出した。